とある2年目の釣り備忘録

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奄美沖の原油流出についてのNature紙記事訳

Nature紙記事の抄訳

奄美沖でのタンカー事故による原油流出について、様々な憶測が飛び交っているようなので、比較的信頼のおけるNature紙の記事を抄訳してみました。

 

目的は、客観的ソースによる事実の周知ですので、個人的意見はなるべく避けることにしました。

 

以下ソース。

 

www.nature.com

 

以下訳。抄訳で、素早く仕上げることを重視したので、日本語の崩れや多少の誤訳はご了承ください。

 

 

 

かつてこれほどまでに大量の軽質原油(light crude oil)が海洋に流出したことはない

1月中旬に東シナ海においてイランのオイル・タンカー、サンチ号が貨物船と衝突し、炎上して沈没したとき、未曽有の海上災害が誕生した。その2週後、根本的な疑問はいまだ解消されないままだ:流出量は?化学的構成は?その行先は?これらの重要な情報を欠いたまま、科学者たちはその短期のーそして長期のー環境への影響を測るべくもがいている。
 
「不運なことに、これは新境地を生み出している。今までで最も類のない流出事故になるかも知れない。」こう語るのは、アンカレッジにあるアラスカ大で以前教鞭をとり、現在は石油燃料流出事故の環境に与えるインパクトを研究し、有事の際に世界中の政府に助言を行う、リック・シュタイナー氏だ。
 
過去の悪名高い流出事故は、重質原油を含んでいた。2010年のメキシコ湾原油流出事故や、1989年のアラスカ、プリンスウィリアム湾でのエクソン・バルディーズ号原油流出事故などだ。こういった原油は深海に長い間とどまり、海洋生物に慢性的な衝撃を与えることもある。サンチ号少なくとも111,300トン以上の天然ガスコンデンセートを輸送しており、それは軽質原油、爆発性の高い燃料性物質で、環境への影響はそれほど長びくことはない。コンデンセートはこれまで大量に流出したことは一度もない。
 
重油と違いコンデンセートは、海面に光る油膜を作り集まるものではなく、このことがその監視と回収を困難にしている。また、重質原油の構成物質のように、海底に沈むこともないのだ。それよりむしろ、燃え尽きるか、気化するか、あるいは海表水に溶け、数週から数か月にわたりとどまるだろう。
 
「ほとんどの原油流出事故は、重い残余物質が海中にとどまり、沈下することにより、長期にわたり毒物学的な影響をもたらした。」こう話すのはラルフ・ポルティエ、バートン・ロウジにあるルイジアナ州立大学微生物学者・毒物学者だ。「この事故はもしかしたら、短期の毒性が焦点になる初めての事故かもしれない。」
 
大量の、だが計測不能の、サンチから流出したコンデンセートが、衝突に次いだ火災の燃料となったかもしれない。ポルティエ氏は、流出原油があっという間に海中でタンカーを囲んだことによる大規模な火災と毒性ガスが、タンカーが着火した際に近辺にいた植物性プランクトンや鳥、海洋性哺乳類や魚類を死滅あるいは傷つけたと言う。
 
未知の領域
 
火が移動するにつれ、事故による衝撃を推し量るのはますます困難になった。なぜなら、コンデンセートの正確な化学構成がいまだ公表されておらず、どれほどのコンデンセートが海中に溶けだしたかを誰も測ることができないからだとシュタイナー氏は言う。
 
「私が最も憂いているのは、溶解留分だ。」コンデンセートに含まれる毒物性化学物質は、表層である程度の低濃度でも、プランクトン、幼魚、無脊椎動物の幼生を傷つけかねない。化学物質が海中に残存する限り、魚類は繁殖障害に苦しみ、鳥類や哺乳類も深刻な化学物質汚染にさらされる。「沖合の荒れた海模様では、その濃度は素早く薄まる。しかし依然として毒性は残るのだ。」シュタイナー氏は述べる。
 
こういった類の流出事故は初めてなので、科学者たちは海中での深刻なコンデンセートの拡散の結末、あるいはどこで弱まり、どこまで拡散するのかといったことをあまり理解していない。「その点こそが科学に足りないことだ」ポルティエ氏はこう述べる。
 
研究者たちも、サンチ号からの汚染物質の行く末を見極めるために奔走している。中国と英国のグループが、海流モデルを駆使して流出原油の行方をシミュレートしている。両モデルとも、黒潮と呼ばれる、日本列島南東から北太平洋に抜ける強い海流に乗るという点では一致している。ヨーロッパのモデルでは、1か月以内に日本沿岸に汚染物質が到達することを予測している。その一方で、中国のモデルでは、日本沿岸には全く到達しないとの結論が出ている。
 
カチャ・ポポヴァ、英国サウサンプトンにある国立海洋学センターの研究者は、なで両モデルがこの点で一致しないのか釈然としていない。しかし、この相違こそが、有事の際のモデリングによる予測の精度を増すための国際協力を進める必要性を示している、と彼女は言う。「これは石油産業が準備性を高めるために組織し、投資するべきところだと思う。」
 
ファングリ・キャオ、中国の国家海洋局の海洋学者は、彼のグループのモデルでは、汚染の拡散経路が日本のイワシ漁のそれと重なる可能性を示していると述べた。ポポヴァ氏は、モデルによる推測は漁業や沿岸への潜在被害を推測するには曖昧な指標にすぎないと忠告した。
 
「私たちが言っていることは、もし今この場所で何かが拡散したら、もっとも可能性のある拡散経路はこうなりますよということで、私たちはどんな種類の油がどれほど流出したかということは知らない。」彼女はこう言った。それらの情報こそが肝要なのだ。なぜなら、コンデンセートの抗生物質は、重要な漁場や沿岸に到達するまでに減成したり気化したりする可能性があるからだ。「監視プログラムが今最も必要なものだ。それによって流出原油がどこにどの濃度で移動しているのかがわかるからだ。」ポポヴァは述べた。
 
シュタイナー氏は、まだ包括的な環境監視システムが始動していないことを指摘した。中国の公式声明では漂流物レベルでの水質監視結果は含んでいるが、そのどれもが汚染を分散している可能性のある伏流を評価していない。
 
「時間が肝要だ。特にコンデンセートのような爆発性のある物質においては。」シュタイナー氏は言う。「彼らは即座にプランクトン、魚類そして海鳥の監視を行うべきだった。そういった試みを私は目にしていない。」
 
 
以上抄訳。
 
 

個人的な意見

 

一釣り人として、一日本国民として、国やメディアが責任を持ち報道をしないので、自分で事実を探ることにしました。

 

ネット上で様々な憶測を呼んでいますが、この記事を読んだ結論としては、なにも確言できないというのが事実です。

 

イギリスと中国の2グループがシミュレーションを行ったということですが、両者が出した結論は微妙に異なっています。

 

イギリス研究グループは日本沿岸への汚染物質到達の可能性を指摘していますが、中国の研究結果では日本沿岸到達の可能性は著しく低いとのことです。

 

一つ注意しなければならないことは、記事でも指摘されているように、彼らのシミュレーションはあくまでも「油がその時点でその場所から拡散するとしたら、こういう経路を取るだろう」という結果を示しているにすぎないということです。

 

Twitter上で広まっている画像として、ロイター紙が使用しているこの画像があります。

 

これはNature紙の記事内でも紹介されている英国グループによるシミュレーション結果で、油の減成や揮発を考慮していないことを頭の片隅に入れておきたいところです。

 

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以下より引用

fingfx.thomsonreuters.com

 

一方で、昨日こんなニュースも届きました。

www.nhk.or.jp

 

奄美大島東シナ海側に、重油のようなものが漂着したというニュース。

 

懇意にしている奄美大島の釣具店店主に聞いたところ、SUPをした知り合いの方が、ボードや体に油が付いたと言います。

 

こちらはおそらく重油で、コンデンセートとは性質が異なることも注記したいところです。

 

これほどの量のコンデンセートの流出は過去例がなく、研究者たちも確実な結論を出せないのが現状です。

 

僕らにできるのは事実を知り、理解することだけでしょう。